コラム

「パワハラ防止法」施行!ハラスメント対策が義務化されます

職場における「いじめ・嫌がらせ」を防止するための「パワハラ防止法」

2020年6月より施行され、企業はハラスメントを防止するために「雇用管理上必要な措置を講じること」が義務づけられました。

ハラスメントによって「働きづらい職場」となれば、人材は流出し、業績悪化にも繋がります。

中小企業の場合は、事後の配置転換がうまくいかず、加害者と被害者が双方共に辞めてしまうこともあるため被害は甚大です。

社員の定着率、会社の生産性をともに高めるため、備えておきましょう。

パワハラとは?

かつて労使トラブルといえば解雇問題でしたが、平成24年にハラスメント問題がそれを超え、今や年間8万件以上にもなっています。

一般的にパワハラというと、上司から部下に対する行為をイメージしますが、職務上の地位や人間関係などの「職場内での優位性」があれば、パワハラに当たる可能性があります。
最近では、職務上の地位を逆手に部下が上司へパワハラを行うケースもあります。

職場におけるパワーハラスメントとは

パワハラ防止法では「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」と定義されています。

厚生労働省はより厳密に「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えるまたは職場環境を悪化させる行為」と定義しています。

具体的なパワハラ行為

「精神的・身体的苦痛を与える、または職場環境を悪化させる行為」には、以下のようなものがあります。

身体的な攻撃
叩いたり、蹴ったり、殴ったり、体に危害を加える行為。
書類であっても、それを投げつけたり、叩くような行為は、これに該当します。

精神的な攻撃
最も多いのがこの、侮辱、暴言、脅迫、名誉毀損など、精神的な攻撃を加える行為。
他の従業員の前で叱責したり、必要以上に長時間叱るなども該当します。
「辞めろ」「無能」「バカ」といった言葉は、業務を遂行するのに必要とは考えられません。

人間関係からの切り離し
仲間外れや無視など個人を疎外する行為。
一人だけ別室に席を移したり、強制的に自宅待機を命じたり、職場の全員が呼ばれているような忘年会や送別会に呼ばないなども該当します。

過大な要求
遂行不可能な業務を命じる行為。
新人に仕事を教えない、他人の仕事を押しつける、処理しきれない量の業務を命じるなど、不可能な要求や業務の妨害が該当します。
単に業務量の多寡だけではパワハラとは言えませんが、その人の能力や経験では処理できないような業務を課すことは、過大な要求となります。

過小な要求
本来の仕事を取り上げる行為。
仕事を与えないだけでなく、バスの運転手に営業所の草むしりだけを命じたり、営業職にシュレッダー業務だけを命じるなど、業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた業務を命じることも該当します。

個の侵害
私的なことに過度に立ち入り、プライバシーを侵害する行為。
家族や交際相手について執拗に質問したり悪口を言ったり、休暇取得の際に理由を問うことなどが該当します。
業務遂行に必要ない、私的なことへの不適切な発言や過度な立ち入りは、プライバシーの侵害となります。

「パワハラ防止法」とは?

正式には「労働施策総合推進法」といいます。

2019年5月、労働環境で起こりうるハラスメントを防止するため、その対策や対応を義務付けるよう労働に関する法律を改正する「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律案」が可決されました。

これに含まれる内容がまとめて「パワハラ防止対策関連法(ハラスメント規制法・パワハラ防止法)」と呼ばれています。

改正される法律ごとに施行日が異なり、2020年より順次施行されています。

気をつけなければならないのは、セクハラやマタハラなどを含めた「職場のいじめ」全般の防止が求められるので、パワハラだけを防止すれば良いわけではないという点です。

「パワハラ防止対策関連法」に含まれる法改正

女性活躍推進法
女性活躍推進のための行動計画策定等義務企業の対象を拡大。

労働施策総合推進法
正式名称は「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」。パワハラ防止措置の義務化 の明記。

男女雇用機会均等法
セクハラ・マタハラに関する相談や訴えを理由とする不利益な取扱いの禁止、就活生・取引先等の「社外の関係者」とのセクハラに関する措置 など。

労働者派遣法
パワハラ防止措置について、派遣先事業主も「派遣労働者を雇用する事業主」とみなす旨の追記。

育児・介護休業法
育児休業・介護休業等に関するハラスメントの相談・訴え等を理由とする不利益な取扱いの禁止など。

中小企業は2022年4月までに対応を

「企業に対するパワハラ防止措置の義務化」について「公布日から1年以内の政令で定める日(中小企業については、公布日から3年以内の政令で定める日)」が施行期日とされています。

2019年の段階で施行期日案としては以下の通りとなっています。

労働施策総合推進法の改正
パワハラ防止対策の法制化・パワハラ防止措置等の実施義務の創設
(公布後1年以内の政令で定める日/中小事業主は、公布後3年以内の政令で定める日までは努力義務)⇒2020年6月1日(中小事業主は令和4年3月31日)

男女雇用機会均等法、育児・介護休業法の改正
セクシュアルハラスメント等の防止対策の強化
(公布後1年以内の政令で定める日)⇒2020年6月1日

女性活躍推進法の改正
行動計画策定・情報公表義務の対象拡大
(公布後3年以内の政令で定める日)⇒2022年4月1日

その他
情報公表の強化・勧告違反の公表、プラチナえるぼし、報告徴収等の対象拡大
(公布後1年以内の政令で定める日)⇒2020年6月1日

企業が行うべき対策は大きく2つ

予防するために「就業規則の変更」

1点目は、就業規則などの変更です。
事業主はハラスメント防止についての方針等を明らかにし、労働者に対しての周知・徹底を図る必要があります。
就業規則にはハラスメントを行った労働者の取扱いについての定めが必要で、解雇や懲戒、減給など処分の内容を定めて記載しておかなければなりません。

トップのメッセージ
・組織のトップが職場のハラスメントは職場からなくすべきであることを明確に示す

ルールを決める
・就業規則に関係規定を設ける、労使協定を締結する
・予防・解決についての方針やガイドラインを作成する

実態を把握する
・従業員アンケートを実施する

教育する
・研修を実施する

周知する
・組織の方針や取組について周知・啓発を実施する

解決するために「相談窓口の設置」

2点目は、相談窓口の設置です。
事業主は労働者がハラスメントの相談を受け付けるための窓口を設ける必要があります。
担当者を配置し、迅速で適切な対応を行えるようにすることも求められています。

相談や解決の場を設置する
・企業内・外に相談窓口を設置する、職場の対応責任者を決める
・外部専門家と連携する

再発防止のための取組
・行為者に対する再発防止研修等を行う

ハラスメントが発生したら?

防止策を講じていても、ハラスメント被害が発生する可能性はあります。
企業が対応を誤ると、職場環境配慮義務違反となりかねません。
大切なのは、申し出や相談があった場合に、適切に対応することです。

事実の確認

被害者本人からの相談や、第三者などからの通報があった場合には、事実確認のための調査を行います。
被害者と加害者の他、第三者や目撃者などからもヒアリングが必要なケースもあります。

処分の実施

事実調査の結果に基づき、被害者へのサポートとともに、加害者への注意、配置転換、懲戒処分などを行います。
この際、過剰な処分は「不当な処分」として加害者が申し立てる可能性もあるので、慎重に決定してください。

ハラスメントの事実を確認できなかったときも、相談者に「なぜハラスメントと確認できなかったのか」などの説明を丁寧に行い理解を求めるなど、事態が悪化しないよう努めましょう。

加害者側とされる従業員にも、今後は誤解を生まないよう、教育・説明の必要があります。

プライバシーの保護

相談を受ける際や事実調査の際は、相談内容や調査内容に関する情報が漏れないよう、関係者のプライバシーに配慮しましょう。

社労士によるサポート

当事務所では、事前・事後のハラスメント対策として「就業規則の改定」「初動確認の徹底」をお勧めしております。

あらかじめ就業規則にハラスメント禁止規定を定め、発生したときにどのような対処をするのかも明記しておくことで、処分の際のトラブルを避けられるとともに、抑止につながります。

そして、ハラスメント発生時には、初動の事実確認が重要となります。
本当にハラスメントがあったかどうかもわからないうちに、被害者と加害者のどちらかの言うことを信じて、偏った判断をすることがあってはなりません。
事実確認を行う人間が社外の第三者であれば、話す方も安心できますし、公平性が保てます。

パワハラ防止法には「罰則」がないため、実効性が薄いという指摘もあります。
しかし、厚生労働大臣は「必要があると認めるときは、事業主に対して、助言、指導または勧告、また違反している事業主が勧告に従わない場合には、その旨が企業名とともに公表すること」ができます。
また、被害者から訴えられれば、民事損害賠償請求や、刑事事件(傷害罪、侮辱罪等)に発展することもあります。

従業員を、ひいては会社を守るため、ともに取り組んでいきましょう。

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