コラム

「臨検」はある日突然やってくる!労働基準監督署を恐れない企業づくり

社労士への相談のなかで、もっとも切羽詰まったもののひとつが「労働基準監督署」に関することです。

とくに「臨検」は、なんの前ぶれもなく監督官が来たり、郵便で呼び出されたりするので、不安になるのも無理はありません。

でも、ご安心ください。
「臨検監督」は労働基準監督署で定期的に事業所を選定しておこなう監督業務の一環です。
会社の規模や業種は関係なく、対象となるのは必ずしも問題がある会社というわけでもありません。

ただ、いざ自社が労働基準監督署の調査対象となったとき、「まさか自社に調査が入るとは・・・」と慌てるか、「後ろめたいことは一切ありません!」と胸を張れるかは、日ごろの労務管理にかかっています。

臨検の結果が「問題なし」となるように、備えておきましょう。

労働基準監督署の臨検監督の種類

労働基準監督署は、労働基準行政の第一線機関として全国に置かれている国の直轄機関です。

定期監督

労働行政方針に基づく行政課題に関する事業所に対して、定期的に立入調査することを指します。
会社と監督官が通じている疑いを払拭するため『原則として予告無し』で行われます。
また、労働保険適用課による【保険料適正調査】、事業主を一斉に集める【集合監督】など、労働基準監督署の定期監督方法は多岐にわたります。
監督を拒否することはできませんが、担当者や責任者が不在の場合などは日程を改めることができます。
就業規則や労働条件通知書、健康診断や有給管理簿のほか、疑わしい場合には伝票や日報などを調査されることもあります。

申告監督

労働者など関係者が違反事実を行政庁へ通報し、行政職権の発動を促す場合等を言います。
監督署の裁量によって必要と判断された場合には「出頭通告書(呼出監督)」を事業所に送ったり、また立ち入り調査を実施することになります。

災害時監督

一定規模以上の労働災害が発生した場合に災害の実態、災害原因の調査や再発防止のための指導を行うものです。

再監督

過去に改善指導や是正勧告を受けた事業所や会社の対応が悪質であった場合など、問題が把握されている事業所には再度の調査を行い、改善報告書通りに実施されているか再調査されます。
軽微な指導の場合は通知のみで終了と思いがちですが、記録されているため改善しておきましょう。

主に調査される書類

労働条件を確認するため、以下のものが必要となる可能性があります。
過去3ヵ月分が必要となります。

◆就業規則
◆賃金台帳
◆タイムカード・出勤簿(労働時間の記録がわかるもの)
◆36時間外協定
◆変形労働時間制の届け出
◆健康診断実施記録
◆年次有給休暇取得記録
◆労働者名簿
◆雇用契約
◆労働条件通知書
◆雇い入れ通知書
◆賃金が最も低い者の資料

労働基準監督官の権限

(労働基準法101条)労働基準監督官は、事業場、寄宿舎その他の付属建設物に臨検し、帳簿及び書類の提出を求め、又は使用者もしくは労働者に対して尋問を行うことができる。
(労働基準法102条)労働基準監督官は、この法律違反の罪において、刑事訴訟法に規定する司法警察官の職務を行う。
と規定されています。

労働基準監督官は労働基準法や労働安全衛生法などの法律違反について、「特別司法警察職員」として裁判所から強制捜査や逮捕の許可を得て捜査を行い、事件を送致する権限のほか、裁判所の許可が無くても事業場に立ち入る権限が与えられています。

大手広告代理店の本店・支店へ一斉に捜査を行った『かとく(過重労働撲滅特別対策)』と呼ばれるガサ入れを実施したのも各都道府県労働局に所属する労働基準監督官によるものです。

労働組合の組織率が2割に満たないなか、小規模になるほど労働者の権利が守られておらず、あくまでも調査、指導を行う労使関係の第三者ではありますが、労働基準監督署は労働環境改善に大きな役割を担っています。

監督官は敵ではなく専門家です

たしかに事業主からすれば怖い存在かもしれませんが、事業の適切な運営のため、内部では発見することのできなかったリスクを無料で診断し、アドバイスまでしてくれる専門家でもあります。

企業にとって、ブランドを毀損することなく、従業員が生き生きと働ける職場環境となることはメリットしかありません。
監督署ににらまれることのない職場づくりが、リスク回避や事業の成長にとっても効果が高いといえます。

監督官は職務遂行に誠実な方が大半ですが、中には不機嫌な方や反則切符(是正勧告書)をチラつかせてくる態度の悪い方もいるかもしれません。
調査への協力は当然ですが、民事介入があまりにひどい場合は上部機関へ苦情を申し立てることもできますので、毅然とした対応をしましょう。

法令違反だと見なされた場合

労務管理が不十分と判断されれば、厳しい行政指導を受けます。
民事調停ともなれば、弁護士による訴訟手続きなどに高い授業料を払うことになるでしょう。

是正勧告を行わず、即時に刑事事件に切り替えられることは稀ではありますが、賃金未払の場合は、刑事事件へ切り替えられた後も支払うよう指導されます。

重大・悪質な法令違反が認められた場合や、既に事故があり臨検監督や指導に協力しない場合は、強制捜査に踏み切られることもあります。
一般的な警察や税務署の調査と同じように帳簿類は当然調査され、法人、代表者、役員の銀行口座の確認、入出金先照会のほか、取引先への通知を送ることもあります。
取引先や金融機関の心象が落ちることは、会社にとって大きなダメージとなります。

マタハラ、セクハラ、パワハラといったハラスメントに関する法律も施行されたことで、労働基準監督署が今まで対応できなかった違反まで是正勧告や社名公表が可能となりました。
また、長時間労働への対策は国も重点的に取り組んでいます。

強制捜査、書類送検されるようなことは絶対に避けなければなりません。

社労士によるサポート

当事務所では、行政各所の調査実施に対する事前調査、立会い、同行サービスなどを行っております。

労働基準監督署は年金事務所と同様に、労働関連法律の周知や遵守指導、危険な業務や機器を扱う事業所に対する問題の指導など、事業が適切に運営されるよう監督する役割を担っているため、労災事故など労働者の身体に危険が及ぶ場合を除き、対応次第で寛大な処置もあり得ます。

「安全な事業所の維持」「労働基準関係法令の遵守」「労働者への賃金支払い」について適切に行っていれば指導を受けることはありませんが、そう簡単にはいかないのも経営です。

労働基準監督署に『目をつけられた』際には誠実に対応し、重大な違反で処分されないようにしなければなりません。

アプローチは違えど、社労士と労働基準監督官の目的は一致する点が多いため、監督署の調査に社労士を立ち会わせると妥協点や解決が早く、また交渉もうまく進みます。

労働基準監督官は客観的な証拠を根拠に指導を実施するため、勧告書の報告期限や是正期日の延長、割増賃金の支払い指導金額の訂正など、専門家に委託することでこちらの言い分を強く交渉することもできます。

既に指導票・是正勧告書などを受け取られた事業主様は至急のご相談をお勧めします。

万が一、監督官によるタイムカード等の調査によって過大な未払い賃金の支払命令がなされた場合も、支払いを行う前に是非一度ご相談ください。

臨検に備えつつ、「誰にでも胸を張れる健全経営」を目指して、ともに取り組んでいきましょう。

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